東京・10月6日──大和自動車交通の株価が前日終値比で 500円安(-21.96%) のストップ安水準に達しました。
この急落の背景には、自民党総裁選の結果を受けた「ライドシェア解禁期待後退」という政治的テーマの剥落があるとの見方が強く、マーケットは短期のテーマ志向で反応した形です。多くの方が小泉進次郎氏が総裁になると予想していたでしょうから、小泉氏が推進することが予想されるライドシェア企業ということで、大和自動車交通への期待が高まっていたのですが、10月4日の投開票の結果、選ばれたのは高市早苗氏。小泉氏は敗北し、ライドシェア事業への期待は後退しています。実は、ストップ安になる半月前、9月24日には大和自動車交通の株価は逆にストップ高まで買われていたので、 短期間でストップ高からストップ安へと株価が急変動したのです。
▼大和自動車交通 株価推移(2025年8月〜10月10日)

大和自動車交通 株価推移(2025年8月〜10月10日)
まるでジェットコースターのような曲線ですよね(汗。
しかし、これがすなわち会社の終焉を意味するわけではありません。むしろ今後は 企業の“中身”(ファンダメンタルズ) が正当に評価される展開が期待されます。
以下にて、今回の急落の背景、直近業績、そして長期投資の視点からの材料とリスクを整理しつつ、今後の株価動向を展望してみます。
1|なぜストップ安に? ― 短期マネーの逆方向シフト
まず、なぜ短期間でここまで急落したのかを整理すると、以下の流れが概ね市場で語られているシナリオです:
1.期待先行フェーズ
9月下旬、自民党総裁選の情勢を巡って「小泉進次郎氏が総裁に選ばれればライドシェア解禁が加速する」という思惑が広まり、ライドシェア関連銘柄に短期資金が流入。大和自動車交通への物色もその一環とされました。
2.逆転・テーマ剥落
ところが、10月4日の投開票で小泉氏は敗北し、高市早苗氏が新総裁に選出。この結果、ライドシェア解禁の期待は一気に後退し、政治テーマとしての魅力が急失速。
3.資金流出→加速度的な売り
テーマ目的で入っていた資金の巻き戻しが始まり、需給悪化が拡大。6日には売り圧が強まり、ストップ安に至った、という流れです。
つまり今回の急落は、業績と直接関係のない 政治テーマの変動 に起因するものと整理できます。
ただし、こうしたテーマ変動型のショックは、裏を返せば 割安な局面を生む可能性 をも孕んでいます。では、会社の実力面はどうでしょうか。
2|業績・財務を確認:赤字脱却に向けた足取り
(1)最新の四半期決算:第1四半期(2025年4~6月)
・売上高:49億6,900万円(前年同期比 +7.2%)
・営業利益:1.3億円(前年同期は 9,500万円の赤字)
・経常利益:1.14億円(前年同期は 8,400万円の赤字)
・親会社株主に帰属する四半期純損失:4,400万円(不動産事業での特別損失を計上)
貸借対照表ベースでは、総資産 296.24億円、負債 204.44億円、純資産 91.8億円、自己資本比率は約 30.8%と前期末(30.7%)からわずかに改善している点も注目されます。
資金繰り面では、現金及び預金が 4.14億円減少しており、短期借入金や長期借入金の返済が進んでいる様子も垣間見えます。
(2)通期決算と見通し
過去実績を含めて IRバンク(決算サマリ)によれば、近年はいくつかの期で赤字と黒字を行き来してきており、収益の安定性には課題があります。
ただし、2025年3月期決算では、売上高 190億4,200万円(前期比 +3.6%)、営業損失 3,700万円まで赤字を縮小するなど、体質改善が進んでいる兆しも見られます。
そして、会社が開示している 2026年3月期予想 では、売上高 201億円、営業利益 3.2億円(黒字化)、経常利益 1.7億円、純利益 5,000万円を見込んでおり、これが実現すれば明確な回復軌道への転換を意味します。
配当政策としては、2026年3月期も年間 8円(中間 4円/期末 4円)を維持する見込みとされており、配当据え置きラインが一つの目安となります。
3|長期投資視点で見る“好材料”と“懸念材料”
株価の戻りを期待するには、好材料とリスクを併存で理解することが不可欠です。以下に整理します。
・長期回復を支える材料
1.本業の回復基調
直近四半期で営業利益の黒字化を達成しており、旅客自動車運送(タクシー・ハイヤー)セグメントも前年から赤字 → 黒字へ改善。
運賃値上げ効果、稼働率向上、乗務員不足の緩和などが背景要因とされています。
2.中期経営計画とM&Aによる拡張戦略
「中期経営計画 2027」を掲げ、成長への戦略を明確化。先行投資や M&A によって地理的展開強化を図っており、すでに 2024年12月に東京都府中市の「十前交通」を買収するなどの動きもあります(例示ベース)。
こうした戦略が着実に利益に結びつけば、成長ポテンシャルは評価を得やすくなります。
3.安定的な不動産事業収益
タクシー・ハイヤー事業だけでなく、不動産事業も保有。過去には不動産部門だけで年間 5~6 億円程度の営業利益を生む時期もあり、収益の安定基盤になってきました。
また現在は所有不動産の一部で再開発を進めており、将来の収益拡大のドライバーになり得ます。
4.株主還元姿勢・自社株取得
株価水準を意識した自己株式取得を実施済みであり、経営陣が自社株価を割安と判断している可能性を示すシグナルと見なす向きもあります。
こうした材料は、政治的テーマの揺らぎとは別に、企業の価値を支える土台になり得ます。
注意すべきリスク・チャレンジ
1.乗務員不足と人件費上昇
タクシー業界においては慢性的な乗務員確保難が構造課題であり、採用・育成コストの増大、人件費上昇リスクは常に重しになります。
増員して稼働率を上げても、コストを抑制できなければ利益が食われる構図もあり得ます。
2.ライドシェア規制緩和による競争激化
かつて成長期待を担ったライドシェア解禁にはリスクの反面もあると会社自身も述べています。
規制緩和が進み、異業種参入や価格競争が本格化すれば、既存タクシー事業の収益を圧迫する可能性があります。
3.燃料費・原材料高騰リスク
燃料コストの変動はタクシー・ハイヤー業界にとって直接の収益インパクト。中東情勢や為替変動、原油価格の急変動等は予防困難な外部リスクです。
直近の決算資料でも、ハイヤー部門で燃料上昇が業績抑制要因になっていることに言及されています。
4.偶発的リスク(事故・損害賠償)
子会社が 2022年10月に発生させた人身事故に関し、損害賠償調整中との開示があり、将来的に想定外の損失が発生するリスクもゼロではありません。
5.信用倍率・流動性の懸念
現時点での信用倍率や売買高を見ると、流動性が高くない銘柄特性があり、株価変動のボラティリティが高まりやすい点には注意が必要です。
4|株価回復のシナリオと投資観点
◇ 回復シナリオ(ポジティブ視点)
・2026年3月期の業績予想が達成され、営業利益 3.2億円クラスでの黒字化を果たす
・不動産再開発や M&A 戦略が収益に寄与
・乗務員確保・コスト管理に成功し、燃料高にも耐える体質強化
・政治テーマが再燃する、またはテーマ性に左右されない“本業重視の評価”が始まる
こうしたシナリオが実現すれば、現在の株価水準からのリバウンド余地も十分考えられます。ただし、実現には時間を要する可能性が高く、中期~長期視点での投資が求められます。
◇ ベースケース(綱渡り継続)
・予想ほどの利益成長には届かず、黒字化は限定的
・一部の材料は評価されるが、投資家の目線は慎重
・上値追いは難しく、レンジ推移または緩やかな回復基調
この場合、短期的なリスク対応が重要で、損益分岐ラインや期中業績を丁寧に注視すべきです。
◇ 悲観シナリオ(逆風支配)
・乗務員不足・人件費圧力が収益を根本から蝕む
・ライドシェア規制緩和が本格化し、価格競争激化
・不動産再開発がコスト肥大化する、または事故賠償などの想定外損失が発生
このシナリオが現実化すれば、業績・株価ともに重圧を受ける可能性があります。
5|投資判断の視点
今回の 株価急落の主因 は、ライドシェア解禁期待という 政治テーマの急激な剥落 によるショックであり、会社の本質的価値が崩れたわけではありません。
決算実績をみると、タクシー・ハイヤー事業を中心に増収・営業利益黒字化を達成しつつあり、通期予想でも黒字回復を見込んでいます。
長期視点で見ると、不動産部門の安定性や中期戦略、株主還元姿勢などが支えとなる一方、乗務員確保・人件費・燃料コスト・競争激化・偶発リスクなどの逆風も存在します。
投資判断としては、「今が押し目買いチャンスか」「回復までの時間軸とリスク許容度」 を明確にした上で参入すべき銘柄といえます。
現在の水準は短期テーマで売られすぎた可能性があり、長期的にはリバウンド余地を秘めている局面と見なせます。ただし、実際に回復軌道をたどるかどうかは今後の四半期決算や外部環境動向に大きく左右されるため、慎重なモニタリングが不可欠でしょう。
なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

STOCK EXPRESS車掌 SHUN
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