― 政府保有株の売却懸念が再浮上、NTTにとっての「リスク」と「チャンス」を読み解く ―
NTT株式会社の株式が、再び政策リスクの波にさらされています。10月21日に発足した高市早苗内閣で、高市首相が各閣僚に示した「指示書」の内容が明らかになり、その中で総務大臣の林芳正氏に対し「NTT法の廃止を含め、制度の在り方について検討を進める」との指示が盛り込まれていたことがわかりました。かつて総務大臣を歴代最長の1438日務めた高市氏だけに、この指示は市場でも重く受け止められています。これを受け、市場関係者の間では再びNTT法をめぐる議論が株価に影響を及ぼすとの見方が広がっています。
政府保有株と外資規制、根幹を揺るがす可能性
NTT法は、政府によるNTT株の保有割合や外資規制、そして全国一律の通信サービス提供義務などを定めた法律です。もともと国営企業であったNTTの公共性を維持するために制定されましたが、今回の「廃止を含む見直し」指示は、この枠組みそのものを見直す動きとして注目を集めています。
総務省幹部は、「NTT法が廃止されれば、政府保有株の売却や外資による買い占めの懸念が出てくる。採算の取れない離島や過疎地の通信インフラ整備が後回しにされるおそれもある」と警戒感を示しています。通信インフラは安全保障にも直結する分野であり、アメリカや欧州の同業企業でも外資規制が設けられているのが現実です。
過去の「NTTショック」、投資家の記憶に残る痛み
振り返れば、2024年4月にも「NTT法改正」が報じられた際、国の保有株売却観測が広がり、投資家の間で狼狽売りが発生しました。当時192.9円あった株価は急落し、一時150円台まで下落。いわゆる“NTTショック”として個人投資家の間にも強い印象を残しました。私がNTT株を保有し始めたのは、ちょうどそのタイミング。その後、同年末には「廃止見送り」の報道が伝わり、株価は持ち直しました。市場がNTT法の行方に過敏に反応していることがよくわかる出来事です。
今回、再び廃止論が浮上したことで、「またあの再現になるのでは」との懸念が市場でささやかれています。特に、前回の反発要因が「政府が保有株を当面売却しない」との安心感によるものだっただけに、廃止論が現実味を帯びれば投資家心理は一気に冷え込む可能性があります。10月18日の記事で(NTT株は今度こそ「160円の壁」を突破できるのか?)とお伝えしましたが、また150円台で落ち着いてしまいそうな予感…
まあ、ここで株価下落すれば、私はまだ買い増ししようとは思いますが、動向が気になるところです。
▼NTT株価推移(2024年1月〜2025年10月24日)

NTT株価推移(2024年1月〜2025年10月24日)
廃止はNTTに不利? 実は一概にそうとは言えない
一方で、NTT法廃止が必ずしもNTTにとってマイナスとは限りません。固定電話など全国一律サービスの提供義務や、他キャリア(KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルなど)への回線貸出価格の低廉設定といった制約は、NTTの収益性を抑える「足かせ」となってきました。これらの制約が緩和されれば、コスト構造の見直しや価格戦略の自由度が高まり、収益改善の余地が広がると見る向きもあります。
しかし、NTT法が廃止されれば、逆に他キャリアには不利な環境が生まれます。通信回線の貸出料金が引き上げられれば、競合各社のコスト負担が増し、結果的にユーザーの通信料金にも跳ね返る可能性があるのです。そのため、KDDIやソフトバンクはこれまでも「NTT法廃止反対」を強く主張してきました。
政治的背景と今後の展望
今回の動きの背景には、自民党内で以前から進められてきた検討の延長線があると見られます。高市首相に近い萩生田光一氏が政調会長時代に設置したプロジェクトチームの座長は、麻生太郎副総裁の側近である甘利明元幹事長。いずれも通信行政に深く関わってきた人物であり、政権内部での影響力は小さくありません。ただし、昨年の衆院選で自民党が大敗したことで、党としては規制改革を進めにくい環境にありました。今回の「廃止を含む検討」は、実際の立法化に直結するというより、「検討姿勢の再表明」と見る専門家もいます。それでも、政府の方針が一つのきっかけとなり、投資家心理を揺さぶることは間違いありません。
投資家に求められる冷静な視点
NTT法をめぐる議論は、NTT株にとって「リスク」と「チャンス」の両面を併せ持っていると言えるでしょう。政府の関与が薄れることによる株価変動リスクは避けられない一方で、規制緩和による収益性向上の期待も存在します。中長期的には、NTTが推進する次世代通信基盤「IOWN」や生成AIなどの新規分野が成長ドライバーとなる可能性もあり、単純なネガティブ材料とは言い切れません。
政策動向と株価の関係が密接なだけに、投資家には短期的な値動きに振り回されず、政府方針・法制度の動向を丁寧に追う姿勢が求められます。
再び注目を浴びる「NTT法」。その結末次第で、日本の通信市場、そしてNTTの未来が大きく変わる可能性があります。私も株主として動向を注視していきたいと思います。
なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

STOCK EXPRESS車掌 SHUN
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