金融庁は2026年8月31日、令和9(2027)年度の税制改正要望を公表しました。その中で個人投資家の注目を集めているのが、新NISAにおける「非課税保有限度額の当年中の復活」です。現在は、NISA口座で保有する株式や投資信託を売却しても、その商品に使っていた非課税保有限度額を再利用できるのは翌年以降となっています。金融庁は、この空いた枠を売却した年のうちに再利用できるよう制度の見直しを求めています。

投資家の中にもこれを求めている方は多いでしょうね。私自身も今年、一部を売却して新NISA枠を使い切ってしまったため(汗、来年まで待っている状況なので、待望しております。
実現すれば、ライフプランの変化やポートフォリオの見直しに合わせて、NISA口座内の資産を以前より柔軟に入れ替えられるようになる可能性があります。ただし、今回公表されたのは、あくまで金融庁からの「税制改正要望」です。制度改正が正式決定したわけではなく、現時点で売却枠が当年中に復活するわけでもありません。
また、当年中に復活することが検討されているのは、総額1,800万円の「非課税保有限度額」です。年間投資枠である、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円、合計最大360万円までが何度でも復活するという意味ではありません。投資家は、この2種類の上限を明確に区別しておく必要があります。
以下にて深堀していきます。
金融庁が「非課税保有限度額の当年中復活」を要望
金融庁が公表した令和9年度税制改正要望では、「資産運用立国」の推進に関する施策の一つとして、「NISAの利便性向上等」が掲げられました。具体的には、あらゆる世代が自身のライフプランに沿った資産形成を行えるよう、非課税保有限度額の当年中の復活や、つみたて投資枠における対象商品の要件整備などを求めています。
新NISAは2024年1月に始まり、非課税保有期間が無期限化されたほか、制度自体も恒久化されました。つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、年間では最大360万円、生涯を通じて保有できる非課税保有限度額は合計1,800万円に拡大されています。このうち、成長投資枠で使用できる非課税保有限度額は1,200万円までとなっています。
一方、現在の制度では、NISA口座で取得した商品を売却すると、その商品を購入したときの金額、すなわち簿価相当分の非課税保有限度額が空きますが、再利用できるのは翌年以降です。金融庁は、この時間差を解消し、売却した年のうちに非課税保有限度額を復活させることを求めています。
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金融庁の資料でも、現行制度の「翌年に復活」と、検討案の「当年中に復活」が対比されています。金融庁は、一人ひとりのライフプランに沿った安定的な資産形成を後押しするためには、これまでの制度拡充に加え、実務的な改善を進める必要があると説明しています。
結論は「復活する可能性はあるが、まだ決まっていない」
「新NISAで売却分がその年のうちに復活するようになるのか」という問いに対する現時点での答えは、「金融庁が実現を求めているものの、正式決定には至っていない」となります。
税制改正要望は、各省庁が翌年度の税制について政府・与党に改正を求める手続きです。要望として提出された内容が、すべてそのまま実現するわけではありません。今後、政府・与党内で必要性、税収への影響、制度設計、金融機関のシステム対応などが検討され、年末にまとめられる与党税制改正大綱が大きな判断材料となります。
大綱に盛り込まれた場合でも、その後に税制改正法案の国会審議などが必要です。また、制度が採用されても、実際の施行日や具体的な復活時期、証券会社における処理方法などが別途定められる可能性があります。したがって、投資家は今回の要望を将来的な制度改善の方向性として受け止めつつ、現行ルールを前提に売買を行う必要があります。
この「当年中の復活」は継続要望です。過去にも同様の要望が示されましたが、令和8年度税制改正では実現しませんでした。再び要望されたことは、金融庁が制度上の重要課題として認識していることを示しますが、それ自体が採用を保証するものではありません。
年間投資枠360万円が何度でも使える制度ではない
今回のニュースで最も注意したいのが、「非課税保有限度額」と「年間投資枠」の違いです。
新NISAには、生涯を通じた非課税保有限度額として合計1,800万円が設定されています。これとは別に、1年間に新規投資できる金額には、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円、合計最大360万円という上限があります。
金融庁が今回、当年中の復活を求めているのは、前者の1,800万円の非課税保有限度額です。年間最大360万円という投資上限を撤廃したり、売却するたびに年間投資枠が復活したりする内容ではありません。
例えば、その年の成長投資枠240万円をすでに全額使って株式を購入し、その株式を同じ年に売却したとします。仮に今回の要望が実現しても、使用済みの成長投資枠240万円そのものが当年中にもう一度使えるとは限りません。年間投資枠を使い切っていれば、非課税保有限度額に空きが生じても、その年に追加購入できず、翌年の年間投資枠を待つ必要があると考えられます。
一方、生涯の非課税保有限度額が残り少なく、その年の年間投資枠には余裕があるケースでは、当年中復活の効果が表れる可能性があります。売却によって空いた簿価相当額がその年のうちに戻れば、残っている年間投資枠の範囲内で新たな商品を購入しやすくなるためです。
つまり、制度改正が実現しても「NISA口座で短期売買を繰り返し、年間360万円を超えて無制限に非課税投資できるようになる」という理解は誤りです。年間投資枠と非課税保有限度額の両方に空きがなければ、新たなNISA買い付けはできません。
復活する金額は売却価格ではなく「買ったときの金額」
もう一つの重要なポイントは、復活する非課税保有限度額が売却代金ではなく、商品を取得したときの簿価を基準に計算されることです。
例えば、NISA口座で100万円分の株式を購入し、その後、値上がりして150万円で売却した場合、復活する非課税保有限度額は150万円ではなく、原則として購入額に相当する100万円です。50万円の利益を含めた売却代金の全額が、新しい非課税枠として戻るわけではありません。
反対に、100万円で購入した商品が値下がりし、60万円で売却された場合でも、非課税保有限度額は原則として取得時の100万円分が空くことになります。ただし、その年に実際にいくら再投資できるかは、年間投資枠の残額にも左右されます。
この簿価管理は現行制度でも採用されています。当年中の復活が実現した場合も、売却損益ではなく取得価額を基準に非課税保有限度額を管理するという基本構造は維持されるとみられます。
値上がりした商品を売却し、その売却代金の全額を直ちにNISAで別の商品へ乗り換えようとしても、非課税保有限度額や年間投資枠の残額によっては、全額をNISA口座で再投資できない可能性があります。残りは課税口座で購入するか、翌年以降の投資枠を待つことになります。
なぜ当年中の復活が求められているのか
新NISAは長期・積立・分散投資による資産形成を支援する制度ですが、投資家のライフプランや資金需要は一定ではありません。住宅購入、教育費、介護費、退職後の生活費などのために、保有資産を一時的に売却しなければならない場合もあります。
また、年齢や家族構成、収入、リスク許容度の変化に応じて、株式中心のポートフォリオから投資信託や債券関連商品を中心とした構成へ変更したい投資家もいるでしょう。企業の業績悪化や投資方針の変更によって、個別株を売却して別の資産へ入れ替えるケースも考えられます。
現行制度では、売却によって空いた非課税保有限度額を再び利用できるのが翌年以降となるため、年の途中でポートフォリオを見直した投資家にとって、資産の入れ替えに一定の制約が生じます。当年中の復活が認められれば、年間投資枠が残っている範囲に限られるものの、資産配分をより機動的に調整できる可能性があります。
金融庁が目指しているのは、短期売買の促進というより、ライフプランの変化に応じた資産形成の柔軟性を高めることだと考えられます。必要なときに資産を取り崩し、その後、余裕資金が生まれた段階で再びNISAを活用できる仕組みになれば、「一度売却すると枠の再利用は翌年まで待たなければならない」という不便が軽減されます。
新制度の効果が本格化するのは数年先になる可能性
金融庁の資料には、新NISAが2024年に始まったことを踏まえると、年間投資可能額が360万円を下回り得るのは令和11(2029)年以降になるとの注記があります。
毎年360万円ずつ投資した場合、5年間で合計1,800万円に達するため、早い投資家では2028年までに生涯の非課税保有限度額を使い切る計算です。その翌年にあたる2029年以降は、過去に保有商品を売却したかどうかによって、新たに利用できる枠が大きく変わってきます。
そのため、現時点では当年中復活の恩恵を実感する投資家が限られていても、非課税保有限度額を使い切る人が増える将来には、制度の使い勝手を左右する重要な仕組みとなる可能性があります。
金融庁は、投資家に制度の予見可能性を与えることに加え、金融機関がシステム対応を行うための十分な期間を確保する観点から、今年度の税制改正で対応する必要があると説明しています。売却情報、取得価額、年間投資枠、非課税保有限度額を同じ年のうちに正確に反映するには、証券会社や銀行側でシステム改修や事務フローの整備が必要になるとみられます。
実現すれば証券会社にも追い風となる可能性
当年中の枠復活が実現した場合、NISA口座の利便性が高まり、個人投資家による資産の入れ替えや追加投資が行いやすくなる可能性があります。これは、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券などのオンライン証券に加え、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券など、NISA口座を提供する金融機関にとっても注目材料です。
利用者の取引機会が増えれば、投資信託の残高拡大や顧客接点の強化につながることが期待されます。ただし、国内株式の売買手数料を無料としている証券会社も多く、取引回数の増加がそのまま大幅な収益増につながるとは限りません。さらに、システム改修費用や顧客への説明、誤った枠管理を防ぐための事務負担も発生すると考えられます。
投資家の売買が過度に短期化すれば、長期・安定的な資産形成を支えるというNISA本来の趣旨との間に緊張が生じる可能性もあります。制度設計では、利用者の利便性を高めながら、年間投資枠を通じて過度な回転売買を抑えるというバランスが重要になります。
個人投資家は制度決定前に売買方針を変えるべきか
現段階で、今回の要望だけを理由にNISA口座の売買方針を変更する必要はありません。当年中復活はまだ正式に決定しておらず、仮に採用された場合の施行時期や細かな手続きも明らかになっていないためです。
特に、「近く制度が変わるから、今のうちに売却してもすぐに枠が戻る」と考えるのは危険です。現在は、売却した商品の簿価相当額を再利用できるのは翌年以降です。正式な制度改正と施行が確認されるまでは、現行ルールに基づいて判断する必要があります。
また、NISA口座で保有する商品を売却して損失が発生しても、一般口座や特定口座の利益との損益通算はできず、損失の繰越控除もできません。非課税である一方、損失に関する税制上の救済を利用できない点は、当年中復活とは別の重要な注意点です。
売却を検討する際は、非課税枠がいつ戻るかだけでなく、投資対象の将来性、資産配分、必要資金、保有期間、損失発生時の税務上の扱いなどを総合的に考える必要があります。制度の利便性が高まったとしても、頻繁な売買が必ず投資成果を改善させるわけではありません。
年末の与党税制改正大綱が次の焦点
今後の焦点は、2026年末に向けて行われる政府・与党の税制改正議論です。金融庁の要望が与党税制改正大綱に盛り込まれるか、盛り込まれる場合にどのような条件や施行時期が設定されるかが注目されます。
確認すべきポイントは、当年中に復活する対象がどこまで認められるのか、売却後どの程度の期間で利用可能額へ反映されるのか、同じ年に買い直す際の年間投資枠をどのように管理するのか、金融機関を変更した場合にどう取り扱うのかといった実務面です。
今回の要望が実現すれば、新NISAは「長期間保有するための非課税制度」であることに加え、人生の変化に応じて保有資産を柔軟に見直せる制度へ一歩進むことになります。一方で、年間360万円の投資上限は別に存在するため、売却と再購入を無制限に繰り返せる制度になるわけではありません。
したがって、現段階での結論としては、「売却した商品の取得価額相当分が、その年のうちに復活する制度が要望されている。ただし、まだ正式決定ではなく、年間投資枠は復活しない点に注意が必要」というものです。投資家としては期待だけを先行させず、年末の税制改正大綱、その後の法案、施行時期および金融機関からの正式案内を順番に確認することが大切でしょうね。
なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

STOCK
EXPRESS車掌 SHUN
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【Dear Overseas Investors: Summary in English】
Japan’s FSA Seeks Same-Year Restoration of NISA Tax-Free Allowance After Asset Sales
Japan’s Financial Services Agency announced its tax reform requests for fiscal 2027 on August 31, 2026. One of the key proposals would allow investors to restore their lifetime NISA tax-free holding allowance within the same year after selling eligible assets.
Under the current system, the acquisition-cost portion of the JPY 18 million lifetime allowance becomes reusable only from the following year. The proposed reform would make that amount available again during the year of sale, potentially improving portfolio flexibility.
However, this proposal would not eliminate or automatically restore the annual investment limits of JPY 1.2 million for the regular investment quota and JPY 2.4 million for the growth investment quota. The total annual limit would remain JPY 3.6 million. The restored amount would also be based on the original acquisition cost, not the sale proceeds or market value.
The measure remains a government agency request and has not yet been enacted. Investors should monitor Japan’s year-end tax reform outline, subsequent legislation and the final implementation schedule.
Disclaimer: This article is provided for informational purposes only and should not be construed as a recommendation to buy or sell any specific securities. Please make investment decisions at your own discretion.





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