日本製鉄は8月4日、2027年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比約17倍の2900億円になる見通しを発表しました。従来予想の2200億円から700億円引き上げています。米国の鋼材市況が堅調に推移するなか、2025年6月に買収を完了したUSスチールの収益が大きく改善することに加え、円安や原燃料価格の上昇に伴う在庫評価差益の拡大も寄与します。
新たな純利益予想は、QUICKコンセンサスの2591億円を上回りました。また、アナリスト11人によるIBESコンセンサスの平均値2852億円も上回っており、市場予想を超える上方修正となります。
売上収益は前期比11%増の11兆2000億円を見込み、従来予想から2000億円引き上げました。本業の収益力を示す連結事業利益についても、従来の5300億円から6300億円へ1000億円上方修正しています。
日本製鉄の決算発表内容について、以下にて詳しく見ていきましょう!!
4~6月期は752億円の最終黒字、前年の巨額赤字から急回復
同時に発表した2026年4~6月期の連結決算は、売上収益が前年同期比40%増の2兆8211億円、連結事業利益が1455億円となりました。最終損益は752億円の黒字となり、前年同期の1958億円の赤字から大幅に改善しています。
前年同期にはUSスチール買収に伴う一過性の費用・損失として2315億円を計上していました。この特殊要因がなくなったことに加え、買収したUSスチールが初めて実質的な利益貢献を果たしたことが、業績回復の大きな要因です。
在庫評価差損益などの一時的な要素を除いた4~6月期の実力ベース事業利益は1084億円でした。このうち国内事業は471億円にとどまった一方、海外事業は613億円を確保しています。USスチール単体の実力ベース事業利益は322億円となり、国内市場の低迷を海外事業が補う収益構造が鮮明になりました。
日本製鉄の岩井尚彦CFOは決算会見で、USスチールについて「当社グループの稼ぎ頭」と位置付け、グループ全体の利益成長をけん引する段階に入ったとの認識を示しました。
USスチールの通期利益を1800億円へ800億円上方修正
今回の決算で最も注目されるのが、USスチールの利益見通しです。日本製鉄は、USスチールの2027年3月期の実力ベース事業利益を従来予想の1000億円以上から1800億円以上へ、800億円引き上げました。
2025年度のUSスチールの実力ベース事業利益は、一過性要因を除いても140億円程度にとどまっていました。これに対し、2026年度は米国鋼材市況の上昇や買収後の収益改善策により、前年度から大幅な利益拡大を見込みます。
上方修正額800億円のうち、600億円は米国の鋼材市況上昇とそれに伴う需要の確実な取り込み、残る200億円はシナジーの進展や高炉再稼働効果などの収益改善努力によるものです。
米国では関税措置によって輸入鋼材の流入が抑えられ、鉄鋼製品の需給が引き締まっています。さらにAIデータセンター、半導体、電力インフラ、エネルギー関連設備向けの需要も堅調で、米国の鋼材価格は高い水準で推移しています。
日本製鉄の資料によると、米国のホットコイル市況は上昇基調を維持しています。世界の粗鋼生産量が減少する一方、米国の粗鋼生産量は底堅く、2025年には8190万トンと日本の8070万トンを44年ぶりに上回りました。保護貿易政策と国内投資の拡大が、米国鉄鋼メーカーの収益を押し上げています。
技術者派遣と高炉再稼働が奏功、シナジー効果は年3億ドルへ
USスチールの収益改善は、鋼材市況の上昇だけによるものではありません。日本製鉄は買収完了後、USスチールに派遣する技術者などを当初の約50人から、短期派遣者を含めて約100人規模に拡大しました。
各製造拠点では260項目の改善施策を進めており、高炉の操業安定化、燃料費の削減、歩留まりの改善、エネルギー効率向上、品質管理の高度化など、日本製鉄が国内外で蓄積してきた製造ノウハウを導入しています。
USスチール最大級の高炉であるゲーリー製鉄所の第14高炉では改修を進め、グラナイトシティ製鉄所では約2年半ぶりに再稼働した高炉が順調に操業しています。電炉拠点のビッグリバー・スチールでも、生産量が拡大し、2026年6月には月間生産量の過去最高を更新しました。
こうした取り組みにより、日本製鉄は2026年度に見込む操業改善のシナジー効果を年3億ドルまで引き上げています。従来見通しの年2億ドルから拡大し、2028年に掲げる年5億ドルの中期目標に対する進捗率は60%に達する見込みです。
米国で約37億ドルの投資を成案化、収益拡大を長期化へ
日本製鉄は、好調な市況の恩恵を一時的なものに終わらせず、USスチールの競争力を構造的に高めるための設備投資も進めています。
2026年8月時点で成案化した米国内の戦略的投資は、累計約37億ドルに達しました。USスチールの中長期計画では、2028年末までに米国内で総額110億ドルを投資する方針です。
主な案件には、ビッグリバーにおける18億8000万ドル規模の直接還元鉄プラント新設、ゲーリー製鉄所の高炉改修や熱延設備増強、フェアフィールドの高級鋼管向け熱処理設備増設などがあります。
これらの投資を通じて、高級自動車用鋼板やエネルギー向け鋼管など、付加価値の高い製品の供給能力を高める方針です。市況上昇による利益拡大に加え、生産性向上と製品構成の高度化によって、USスチールの収益力を持続的に引き上げられるかが今後の焦点となります。
国内事業は67%減益、中国の過剰供給と中東情勢が重荷
米国事業が好調な一方、国内事業は厳しい状況が続いています。2026年4~6月期の国内事業の実力ベース事業利益は471億円と、前年同期比で約67%減少しました。
国内の鋼材需要が低迷しているほか、中国の過剰生産と輸出拡大によってアジア地域の市況が悪化しています。特にASEAN市場は中国製鋼材の流入による影響を強く受けており、日本製鉄は世界の鉄鋼事業環境について引き続き深刻な状況にあるとの認識を示しています。
中東情勢の悪化も収益を圧迫します。物流費やエネルギーコストの上昇、中東向け鋼材輸出の減少などにより、通期の実力ベース事業利益を約600億円押し下げる見通しです。このうち4~6月期には、すでに約250億円のマイナス影響が発生しました。
原油・天然ガス価格やスクラップ、原料炭などの上昇、円安による調達費用の増加を含め、外部環境の変化による減益要因は従来想定から1000億円拡大します。コスト改善による100億円の上積みや、原料事業の100億円増益、USスチールの800億円増益で、この悪化分を補う構図です。
国内事業の通期実力ベース事業利益は、前期比28%減の3800億円を見込みます。従来予想の4700億円から900億円引き下げており、今回の上方修正が実質的にUSスチールを中心とする海外事業によって実現したことが分かります。
下期は国内事業の回復を想定、名古屋の次世代熱延設備が稼働へ
日本製鉄は上期の実力ベース事業利益を2500億円以上、下期を4500億円以上と見込んでおり、下期に2000億円の利益改善を計画しています。下期の利益水準は年率換算で9000億円以上となります。
国内事業では、生産・出荷数量の回復、原燃料価格の上昇分を鋼材価格へ反映する値上げの浸透、コスト削減などによって、上期の1000億円から下期は2800億円へ大幅な増益を見込みます。
収益改善の一翼を担うのが、名古屋製鉄所で約2700億円を投じて整備した次世代熱延設備です。4月に熱間試運転を開始しており、8月から商業生産に入る予定です。
新設備は年間600万トンの生産能力を持ち、圧延や温度制御の精度を大幅に高めます。自動車向け超高張力鋼板など高級鋼を安定的に大量生産し、国内事業の製品構成と利益率を改善する狙いです。
ただし、下期の利益回復には鋼材値上げの浸透や輸出環境の改善など複数の前提が含まれます。計画どおり国内事業が底入れするかは、今後の決算を見るうえで重要な確認点となります。
実力ベース利益は7000億円以上を維持、上方修正の「質」に注意
在庫評価差損益などを除いた通期の実力ベース事業利益は、前期比8%増の7000億円以上とし、5月時点の予想を据え置きました。
USスチールの利益を800億円、原料事業を100億円上方修正する一方、国内事業を900億円下方修正したため、実力ベースの全社利益は変わらない計算です。今回、連結事業利益を1000億円、純利益を700億円引き上げた主因には、USスチールの実力利益改善に加え、在庫評価差益が従来想定を700億円上回ることも含まれています。
したがって、投資家にとっては純利益の上方修正額だけでなく、その内訳を見極める必要があります。USスチールの構造的な収益改善はポジティブである一方、在庫評価差益は原料価格や為替の変動によって増減する一時的な要素だからです。
年間配当は24円を維持、1000億円以上の資産圧縮を計画
2027年3月期の年間配当予想は、前回公表どおり1株24円を据え置きました。中間配当12円、期末配当12円を予定しています。金額は株式の5分割後の換算ベースです。
日本製鉄は2030中長期経営計画で、連結配当性向30%程度を目安とする従来方針を維持しながら、年間24円の下限配当を導入しています。今回の純利益上方修正を受けても配当予想は変更しておらず、今後の利益進捗や投資負担を踏まえた追加還元の余地が注目されます。
財務面では、2026年度に政策保有株式の売却などによって1000億円以上の資産圧縮を進めます。これとは別に、持分法適用会社であるNSユナイテッド海運株の一部売却により、約360億円の資金化も見込んでいます。保有資産やグループ会社の見直しを進め、米国を中心とする成長投資と財務健全性の両立を図る方針です。
投資家の焦点は「米国の持続力」と「国内の反転」
今回の決算は、USスチール買収が日本製鉄の利益に本格的に寄与し始めたことを示す内容です。買収時に計上した巨額の一過性損失を経て、USスチールがグループの「稼ぎ頭」へ転じつつある点は、中長期的な企業価値を考えるうえで大きな変化といえます。
一方、米国事業には鋼材市況の調整リスクがあります。高金利による建設需要の減速や、関税を負担しても採算が取れる輸入鋼材の流入によって、下期に市況が調整する可能性を会社側も織り込んでいます。岩井CFOも、下期には一定の調整が入るとの見方を示しています。
国内では需要低迷、中国の過剰供給、中東情勢に伴うコスト増という複数の逆風が続きます。下期に計画する鋼材値上げとコスト改善、名古屋の新設備による高級鋼の拡販が、想定どおり利益回復につながるかが焦点です。
短期的には純利益2900億円への上方修正と市場予想超過が評価材料となります。中長期的には、USスチールの利益1800億円以上を市況頼みにせず維持・拡大できるか、そして海外事業の成長によって国内事業の変動を吸収できる収益構造を確立できるかが、日本製鉄株を判断するうえで最大のポイントとなりそうです。
なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

STOCK EXPRESS車掌 SHUN
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【Dear Overseas Investors: Summary in English】
Nippon Steel Raises FY Net Profit Forecast to ¥290 Billion as U.S. Steel Drives Growth
Nippon Steel raised its net profit forecast for the fiscal year ending March 2027 by ¥70 billion to ¥290 billion, about 17 times the previous year’s level and above market expectations.
Revenue is projected to rise 11% to ¥11.2 trillion, while business profit is expected to increase 23% to ¥630 billion. For the April-June quarter, Nippon Steel reported net profit of ¥75.2 billion, reversing a ¥195.8 billion loss a year earlier.
U.S. Steel, acquired in June 2025, contributed to earnings for the first time. Nippon Steel raised its full-year underlying profit forecast for the U.S. subsidiary by ¥80 billion to at least ¥180 billion, supported by higher U.S. steel prices, operational improvements and acquisition synergies.
However, weak domestic demand, Chinese oversupply and higher costs related to Middle East tensions continue to weigh on the Japanese business. Nippon Steel maintained its full-year underlying business profit forecast at more than ¥700 billion.
The annual dividend forecast remains unchanged at ¥24 per share on a post-stock-split basis. Investors will focus on whether U.S. Steel can sustain its earnings growth and whether Nippon Steel’s domestic business recovers in the second half.
Disclaimer: This article is provided for informational purposes only and should not be construed as a recommendation to buy or sell any specific securities. Please make investment decisions at your own discretion.





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