なぜ、ファイントゥデイは上場延期したのか?

なぜ、ファイントゥデイは上場延期したのか? IPO

10月20日の記事(ファイントゥデイHD、上場を延期)でお伝えしたように、2025年11月5日に予定されていたファイントゥデイホールディングス株式会社(以下、ファイントゥデイ)の東京証券取引所スタンダード市場への新規上場が、直前になって再び延期されました。昨年12月に続く2度目の延期です。日経平均株価が史上最高値を更新する中での決断に、市場関係者の間では驚きとともに、現下のIPO市場の厳しさが改めて意識されています。一体なぜ、ファイントゥデイは再び上場延期したのでしょうか?本日の記事で深堀りしてみます。

市場は好調でも、業種には冷ややかな目

ファイントゥデイは資生堂の日用品部門を母体に、欧州系投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズが2021年に設立した企業です。ヘアケアブランド「TSUBAKI」やメンズケアブランド「UNO」など、誰もが知るブランドを展開し、アジア11カ国・地域で事業を広げています。
同社は今回、想定価格を前回(2,150円)から大幅に引き下げた1,470円とし、承認前届出書提出(S-1方式)を採用するなど慎重な姿勢で上場準備を進めてきました。しかし、10月20日の取締役会で「昨今の株式市場の動向などを総合的に勘案した結果」として上場を延期。市場全体が活況を呈する中での判断に、投資家の間では「表面的な好況と実際の需給の乖離」が浮き彫りになったとの見方が広がっています。

株価評価にズレ、投資家との「ギャップ」

延期の背景には、投資家側が提示した企業価値(バリュエーション)と、会社および大株主であるCVCキャピタルが想定する水準の間に大きなギャップがあったことが挙げられます。
関係者によると、ファイントゥデイ側はEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)の約11倍を企業価値の目安としていましたが、この倍率は同業の花王やライオンなどと比較して高めの水準です。
一方、これら既存大手企業の株価は年初来で軟調。原材料高や国内需要の伸び悩みなどを背景に、パーソナルケア・日用品セクター全体の成長期待が低下しており、高い評価を得るのは難しかったとみられます。
エキタス・リサーチのアナリスト、スミート・シン氏も「ファイントゥデイの想定バリュエーションは同業他社より高い。投資家が納得する水準には至らなかった」と指摘。UBPインベストメンツのファンドマネジャー、ズヘール・カーン氏は「セクター全体のファンダメンタルズが優れているとは言えず、魅力的な評価額でのIPOは依然として困難」と述べています。

投資ファンドに迫る“出口戦略”の再考

CVCキャピタルは、2021年に資生堂から日用品事業を買収して以降、ブランド再生と収益改善を進めてきました。一般的にプライベートエクイティファンドは、数年内に企業価値を高め、株式売却(エグジット)で投資回収を図ります。しかし、今回の再延期で想定通りのエグジットが難しくなったことは明らかです。
CVCにとっては、①多少評価を下げても早期に上場を実現するか、②業績改善と市場環境の好転を待って再挑戦するか、③あるいはM&A(他社への売却)による出口を検討するか――という難しい判断を迫られています。市場関係者の一部では、「IPO以外のエグジット戦略を本格的に模索する可能性もある」との見方も浮上しています。

「三度目の正直」なるか、信頼回復が鍵

過去には、ウイングアーク1stのように2度の延期を経て上場を果たした例もありますが、3度目の挑戦で公開価格を割り込むなど苦戦したケースも少なくありません。
ファイントゥデイが再び上場を目指す場合、市場の信頼回復とともに、企業価値評価の現実的な見直し、または事業収益力のさらなる改善が不可欠です。ブランド強化、新市場開拓、コスト効率化といった取り組みが求められるでしょう。
同社は「今後の市場動向を見極めた上で総合的に判断する」としていますが、再挑戦のタイミングは未定。市場はファイントゥデイとCVCキャピタルの次の一手に注目しています。

編集後記

今回の上場延期は、好調な株式指数の陰で、個別業界の評価が二極化している現実を映し出しました。ファイントゥデイ等の日用品の上場が難航する一方、テクセンドフォトマスクのような半導体関連株は順調に上場を果たしています。(10月10日の記事参照:テクセンドフォトマスク、10月16日 上場 ― 半導体フォトマスク世界首位、AI時代を支える成長企業 ―

投資家が「何を、どの価格で買うか」を一段と慎重に見極める時代に入りつつあります。ファイントゥデイの再挑戦は、単なる企業の成否にとどまらず、2025年以降の日本IPO市場の方向性を占う試金石となりそうです。

なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

STOCK EXPRESSの車掌、SHUN

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渋谷桜丘 在住。立教大学法学部卒業。株主として様々な企業を応援し、経済活性化に努めております。報道カメラマンとして写真撮影もしており、数々の著名人を撮影。2000年代にはライブドアニュースにて経済記事執筆。(保有資格:知的財産管理技能士、化粧品検定1級、食生活アドバイザー、景表法検定など)

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