銀行業界で、新卒採用の流れに変化が表れています。2027年度に銀行へ入行する新卒採用者数は、前年度比で減少に転じる見通しです。銀行業界全体の新卒採用数が前年を下回るのは、2022年度入行以来、5年ぶりとなります。
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクでは、2027年度の新卒採用計画が合計2180人となり、2026年春と比べて4.8%減少する見込みです。地方銀行でも採用計画を縮小する動きが相次いでおり、銀行業界全体で人材戦略の見直しが進んでいます。
ただし、今回の採用減少は、過去のような業績悪化を受けたリストラ色の強い人員削減とは性格が異なります。人工知能(AI)を活用した業務効率化が進んでいることに加え、初任給の引き上げや柔軟な人事運用によって若手社員の定着率が改善し、従来ほど大量の新卒社員を採用する必要がなくなっているためです。
投資家にとって重要なのは、採用人数の減少そのものではなく、銀行が人件費をどのようにコントロールし、浮いた経営資源を成長分野へ振り向けられるかです。AIによる生産性向上と専門人材への投資が同時に進めば、今回の採用減少は銀行株の収益性を押し上げる材料となる可能性があります。
以下にて深堀していきます。
3メガバンクの新卒採用は合計2180人、前年度比4.8%減へ
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループが計画する2027年度の新卒採用数は、合計2180人となる見通しです。2026年春の採用計画と比較すると、4.8%の減少になります。
日本銀行が公表した2026年6月の全国企業短期経済観測調査、いわゆる短観でも、金融機関を含む企業の新卒採用計画が調査されています。銀行業全体では、2027年度の新卒採用者数が前年度比2.9%減となる見通しで、メガバンクだけでなく地方銀行にも採用抑制の動きが広がっていることが分かります。新卒者採用状況は、日本銀行の2026年6月短観でも確認できます。
銀行の新卒採用は、2010年代後半から2023年度にかけて大幅に減少しました。当時は日本銀行のマイナス金利政策が続き、貸出金利と預金金利の差である利ざやが縮小していました。銀行にとって本業の収益を伸ばしにくい環境が続き、店舗の統廃合や事務部門の集約、人員構成の見直しが進められたのです。
これに対して、今回の採用減少は銀行業績が好調な局面で起きています。金利のある世界が戻り、国内貸出の収益性が改善するなかで、銀行は人材不足に追い込まれて採用を減らしているわけではありません。業務のデジタル化やAI活用、若手社員の離職率低下を踏まえ、必要な人材を選別して採用する「少数精鋭型」へ移行していると考えられます。
採用減少の背景にあるAI活用、定型業務の省人化が進む
今回の採用計画で注目されるのが、AIによる業務効率化です。3メガバンクのうち1行は、採用人数を減らす背景の一つとしてAI活用の影響を認めており、今後も業務効率化の進展に伴って採用数が減少する可能性を示しています。
銀行には、融資関連書類の作成、社内稟議、契約書の確認、顧客からの問い合わせ対応、議事録の作成、情報検索など、多くの定型業務があります。生成AIや業務自動化ツールを活用すれば、こうした作業に必要な時間を短縮でき、従業員は顧客への提案や高度な審査、企業の経営支援といった付加価値の高い業務へ集中できます。
従来の銀行では、多数の新卒社員を一括採用し、営業店や事務部門へ配置しながら長期間かけて育成する雇用モデルが一般的でした。しかし、窓口業務のオンライン化やキャッシュレス化が進み、生成AIが事務作業を補助するようになれば、定型業務を担う人員を大量に採用する必要性は低下します。
投資家の視点では、この変化は中長期的な経費率の改善要因となります。新卒採用を抑制しても業務量を維持できれば、従業員一人当たりの生産性が高まり、人件費の増加を抑えながら収益を拡大できる可能性があるためです。
もっとも、AI導入にはシステム開発費、クラウド利用料、セキュリティー対策費、従業員教育費などが必要です。そのため、採用人数を減らしたからといって、直ちに銀行の総経費が減少するとは限りません。短期的にはデジタル投資が先行し、その後に事務コストの削減効果が表れるという時間差も意識する必要があります。
「人を減らす」のではなく、専門人材へ採用枠を振り替える
銀行各社は、新卒採用全体を縮小する一方、IT、デジタル、グローバル、資産運用、市場部門といった専門分野の人材獲得を強化しています。新卒採用でも専門コースを設け、早い段階から特定分野の知識や経験を蓄積できる仕組みを整えています。
さらに、即戦力を期待できる中途採用にも積極的です。3メガバンクの2026年度中途採用計画は合計1300人となり、2025年度から2.7%増加する方向です。新卒社員を一律に採用して長期間育成するだけでなく、必要な能力を持つ人材を必要なタイミングで獲得する方向へ、人材ポートフォリオが変わりつつあります。
これは単純な採用削減ではなく、採用予算の再配分です。事務や窓口業務を中心とする従来型人材の割合を減らし、データ分析、サイバーセキュリティー、AI開発、資産運用、M&A、事業承継、海外ビジネスなど、高い収益を生み出せる分野へ人材を重点配置する戦略といえます。
銀行株の評価という点では、この人材シフトが非金利収益の拡大につながるかが焦点になります。金利上昇による利ざや改善だけに頼らず、資産運用、決済、コンサルティング、法人向けソリューションなどの手数料収入を増やせれば、収益構造の安定性が高まります。
一方で、デジタル人材や資産運用人材は、IT企業、コンサルティング会社、外資系金融機関などとの獲得競争が激しい分野です。新卒採用数が減少しても、一人当たりの採用費や給与が上昇すれば、人件費全体が大幅に減るとは限りません。人数から人材の質へと評価軸が変わっている点に注意が必要です。
初任給上昇でも若手の離職率が改善、補充採用の必要性が低下
AIと並んで採用減少の背景となっているのが、若手社員の定着率改善です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、金融業・保険業における新規大卒者の所定内給与額は、2025年に26万6700円となりました。2020年と比べると4万6200円増加しており、銀行各社が若手の待遇改善を急いできたことが表れています。厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査でも、産業別・年齢別の賃金動向が示されています。
初任給の引き上げは、短期的には人件費を押し上げます。しかし、若手社員の離職が減れば、欠員を補うための追加採用や再教育にかかる費用を抑えられます。採用した社員が早期に退職しなくなれば、人材育成への投資を長期間にわたって回収しやすくなるため、結果的には組織全体の生産性向上につながります。
三重県を地盤とする百五銀行では、2025年度と2026年度にそれぞれ120人前後を採用しましたが、2027年度の採用計画は100人になる見込みです。同行では初任給の引き上げなどが奏功し、5年前には20%を超えていた入行後3年以内の離職率が、足元では1割程度まで低下しています。
関西みらい銀行でも若手社員の定着が進み、内定辞退率が想定以上に改善したことから、2027年度の採用計画を減らします。初期配属におけるミスマッチを防ぐため、社員との面談を増やし、本人の希望や事情を考慮した配属を行う動きも広がっています。
従来は、一定数の内定辞退者や早期退職者が出ることを前提に、多めの人数を採用する必要がありました。内定辞退率と離職率がともに低下すれば、銀行は実際に必要な人数に近い採用計画を組めるようになります。今回の採用減少には、こうした採用精度の向上も反映されているとみられます。
地方銀行でも採用抑制、地元志向の回復が追い風に
採用計画の見直しは、メガバンクだけに限られません。地方銀行でも初任給の引き上げ、勤務地を限定した働き方、地域貢献を前面に出した採用活動などにより、若手人材の確保と定着が進んでいます。
関西みらい銀行では、地域金融機関への人気が持ち直し、とりわけ「地元に貢献したい」と考える学生が増えているとしています。企業説明会では融資業務だけでなく、地域企業の事業承継支援や金融教育などを紹介し、地域社会とのつながりを訴求しています。
鹿児島銀行は、2027年春の採用計画を前年度比24%減の110人とする方針です。一方で、初任給は5年連続で引き上げており、2027年度の大卒・大学院卒の初任給を28万5000円とする予定です。2022年度と比べると8万円の上昇となり、採用人数を絞る一方で、一人当たりの待遇を大幅に改善しています。
また、同行では2025年4月から役職定年を段階的に引き上げる方針を示しており、ベテラン社員の退職者数が減少する見込みです。若手の離職率低下だけでなく、シニア層の就業期間延長も、新卒採用数を抑える要因となっています。
地方銀行にとっては、人口減少地域で優秀な人材を安定的に確保できるかが重要な経営課題です。採用人数を減らしながらも、待遇改善によって必要な人材を確保できるのであれば、経営効率の向上につながります。一方、単なる採用抑制によって営業力や地域企業への支援力が低下すれば、将来の収益機会を失うリスクもあります。
銀行株には追い風か――期待される経費率とROEの改善
投資家が今回の採用減少を評価する際には、銀行の経費率と自己資本利益率、いわゆるROEへの影響が重要になります。AIを活用して業務量を減らし、自然減や採用抑制によって人員構成を適正化できれば、収益に対する経費の割合を引き下げられる可能性があります。
銀行は多数の店舗や従業員、巨大な基幹システムを抱える装置産業的な側面を持っています。そのため、売上高に相当する業務粗利益が増えても、経費が同じペースで増加すれば利益率は高まりません。金利上昇による利ざや改善に加えて、人員配置の効率化やデジタル化によって経費の伸びを抑えられるかが、今後の利益成長を左右します。
AI活用による生産性向上が実現すれば、銀行は同じ人数でより多くの顧客や案件に対応できます。特に法人営業では、AIが企業情報の収集や財務分析、提案書作成を支援することで、担当者が顧客との対話や課題解決に充てる時間を増やせます。これが融資だけでなく、M&A、事業承継、資産運用などの手数料収入拡大につながれば、収益面での効果は人件費削減以上に大きくなる可能性があります。
こうした構造改革がROEの持続的な改善につながれば、銀行株のPBRが切り上がる材料となります。銀行株は長年、低い収益性や成長期待の乏しさから、PBR1倍を下回る銘柄が多い業種でした。金利正常化と資本効率改善にAIによる生産性向上が加われば、銀行業界の評価をさらに押し上げる可能性があります。
採用減少だけで投資判断するのは危険、AI投資の成果を見極める必要
採用人数の減少は、必ずしも利益増加を意味するものではありません。銀行がAIシステムを導入しても、既存業務を抜本的に見直さなければ、単に新しいシステム費用が上乗せされるだけになる可能性があります。
また、専門人材を十分に確保できないまま新卒採用を減らすと、中長期的に営業現場や管理部門の人手が不足する恐れがあります。金融機関には厳格な法令対応、サイバーセキュリティー対策、マネーロンダリング防止、顧客保護が求められます。効率化を急ぎすぎれば、事務ミスやシステム障害、不正検知の遅れなど、重大なオペレーショナルリスクにつながりかねません。
特に地方銀行では、地域企業との長期的な信頼関係が競争力の源泉です。店舗や担当者を過度に減らせば、顧客との接点が薄くなり、地域の資金需要や事業承継ニーズを把握しにくくなる可能性があります。AIで代替できる事務と、人にしか担えない相談・提案業務を明確に区分する必要があります。
投資家は採用人数だけでなく、従業員数、人件費、経費率、一人当たり業務純益、デジタル投資額、手数料収入、システム障害の発生状況などを継続的に確認することが重要です。AI導入の効果が具体的な利益や顧客サービスの向上として表れているかを見極める必要があります。
今後の焦点は「採用数」から「一人当たりの付加価値」へ
2027年度の新卒採用減少は、銀行業界の縮小を単純に示すものではありません。金利環境が改善し、業績が好調に推移するなかで、AIによる業務効率化と人材の専門化を進める構造改革の一環と捉えるべきでしょう。
銀行は今後、人数の多さではなく、従業員一人当たりがどれだけ高い付加価値を生み出せるかを競うことになります。定型的な事務はAIやデジタル技術に任せ、人は顧客との交渉、複雑な融資判断、事業承継、資産形成支援などに集中するという役割分担が進みそうです。
新卒一括採用を中心とした人材モデルから、専門コース採用、中途採用、社内人材の再教育を組み合わせたモデルへの転換も加速します。採用人数が減る一方で、ITやグローバル、資産運用などの人材が増えれば、銀行の収益構造そのものが変化する可能性があります。
銀行株にとって、AI活用と採用の少数精鋭化は、中長期的には経費率とROEの改善につながり得る前向きな材料です。ただし、その効果は一律ではありません。AIを実際の業務改革につなげられる銀行と、導入コストだけが膨らむ銀行との間で、収益力や株価評価の格差が広がる可能性があります。
今後の銀行株投資では、金利動向や貸出残高だけでなく、人材戦略、AI投資の費用対効果、専門人材の確保状況も重要な判断材料となりそうです。今回の採用減少は、銀行業界が「人員数を競う時代」から「人とAIが生み出す付加価値を競う時代」へ移行し始めたことを象徴する動きといえるでしょう。
なお、本記事は、投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の株式売買を推奨するものではありません。投資の最終ご判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

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EXPRESS車掌 SHUN
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【Dear Overseas Investors: Summary in English】
Japanese Banks Cut Graduate Hiring as AI Drives a Shift Toward a Leaner Workforce
Japanese banks are expected to reduce graduate recruitment for fiscal 2027 for the first time in five years. Mitsubishi UFJ Bank, Sumitomo Mitsui Banking Corporation and Mizuho Financial Group plan to hire a combined 2,180 graduates, down 4.8% from the previous year.
Unlike the hiring cuts made during Japan’s negative-interest-rate era, the latest reduction comes as bank earnings remain strong. The main drivers are the growing use of artificial intelligence, lower turnover among younger employees and a shift toward more selective recruitment.
Banks are reducing hiring for conventional administrative roles while expanding specialist recruitment in IT, digital services, global banking and asset management. The three megabanks are also expected to increase mid-career hiring to a combined 1,300 employees in fiscal 2026.
For investors, successful use of AI could improve productivity, cost efficiency and return on equity. However, savings are not guaranteed, as banks must continue investing in digital systems, cybersecurity and highly paid specialist talent. The key issue is whether lower hiring translates into sustainable profit growth without weakening customer service or risk management.
Disclaimer: This article is provided for informational purposes only and should not be construed as a recommendation to buy or sell any specific securities. Please make investment decisions at your own discretion.





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